「希柚、今何時?」
 「えっと、…ろくとななのあいだ、だから」

 朝の子ども向け番組を見ながら食べていたせいで気づけば大幅に遅れてしまっていた。樹莉は希柚を促しながら、あとは混ぜるだけ状態にした夕食の材料をジップロックやタッパーに入れて冷蔵庫にしまう。

「さんじゅう…さん?」 

 希柚は最近時計の勉強を始めた。保育所では時計が読める子も多いらしい。希柚も数字は読めるので、樹莉は時計の読み方を教えている。
 もっぱら、区切りの良い数字、例えば七時、や七時半といったざっくりした読み方はできるようになった。

 「せいかーい!ってことで希柚、ハリーアップ!」
 「わかってるよっ」
 
 希柚はパンを口の中に詰め込みフルーツジュースで流し込んだ。そろそろ服を着替えて歯磨きをしないとやばいというのがわかっているからだ。時計の長い針が十を過ぎた頃に家を出ないといけない。十を過ぎると樹莉がとてもうるさくなる。

 「ごちそうさまでした!」

 希柚は元気よく手を合わせると危なげなく椅子から降りて、使った食器をきちんと台所に運んだ。そして脱衣所に向かい歯磨きをする。ピンク色のヘッドの小さな歯ブラシにいちご味の歯磨き粉をつけてゴシゴシと歯磨きをしたうさぎの絵がプリントされたコップでうがいをしたあとは仕上げに樹莉の元に向かう。

 「まま、はみがき!」
 「はいはい」

 正座をした樹莉の膝に希柚が寝転び口を開ける。奥歯や歯の裏を丁寧に磨くと「はい、うがい」と促した。その時、脱衣所にある洗濯機から「ピーピー」と音が鳴る。

 「まま、せんたっきー!」
 「はいはい」

 樹莉は希柚の細くて長い髪を濡れないように軽く結びヘアバンドで前髪を止めると洗濯蓋を開けてかたく絞った雑巾みたいに丸まったシーツを取り出した。