「気をつけろよ! 間違って落としたらもっと酷いことになるぞ!!」
「ゆっくりだ! ゆっくり!! 焦ったら手を滑らせて落とすぞ!!」

 そんな掛け声をかけながらようやく一本の建材が退けられ、ちょうど私の目の前に置かれた。
 私のことは視界の中に入っていないのか、気づいていないようだ。

「もう! あれじゃあ、間に合わないかも! 私に力があれば……」

 そう思いながら、何気なく目の前の建材に手を当て、無意識のうちに握りしめようとしていた。

 めきめきっ。

「ん?」

 おかしな音に私は目線を自分の手に向ける。
 すると、小さな幼女の手のひらの形に、建材の一部が握り潰されていた。

『自分の能力を超々強化させる秘法だよ!』

 突然一昨日の商人の言葉が脳裏に浮かぶ。
 息を吐き、意識を集中させてから掴んだままの建材を持ち上げようと腕をあげた。

「わぉ。凄い!! ほら! 私は間違ってなかったじゃない!!」

 私の目の前には、私の腕によって持ち上げられた重い建材が、浮かんでいた。
 身体は幼女になってしまったけれど、商人の言った通り能力は超々強化されていたらしい。

「そこのあなたたち! 退けなさい!! 私がやるわ!!」

 私は颯爽(さっそう)と崩れた建材の山へと進んで行った。