──その日の夜。

綾乃はいつも以上にオシャレをして家を出た。

御曹司くんが待つラウンジは、都心でも富裕層の御用達だと呼ばれるほどのゴージャスな大人の憩い場。


「わぁ、素敵なラウンジですね!こんなに綺麗な夜景が一望できるなんて…」


窓ガラス越しに煌めく夜の宝石は、確かにその美しさで綾乃を魅了した。

そして、喜ぶ綾乃の向かいの席ではフォーマルスーツを纏った御曹司くんが紳士的に微笑む。


「喜んでもらえて嬉しいよ」


そんな御曹司くんに対して、綾乃は慣れない様子で普段の自分を封印し、淑女を装う。


「美しいキミのために、極上のワインを用意したんだよ。さぁ、乾杯しよう」


赤ワインを注がれたワイングラスが、お互いの乾杯によってチン!、と音を鳴らしてその中身を泳がせる。


「…あ、あの、御曹司くん」


ワイングラスに口をつけたまま、綾乃がつぶやいた。