「暁人は?何かやりたいこととかある?」
「んー・・・考えておく」
「そっか。・・・でも今更だけど良かったの?私なんかに付き合っちゃって」

 何だか申し訳なくなってきちゃった、と深く息を吐く。彼からしてみれば、ただ私のお遊びに付き合っているようなものだろう。だって好きなのも、デートに舞い上がっているのも、私だけ。暁人は別にやりたい事を私とする意味は全くないのだ。

「ごめんね。私ばっかり盛り上がっちゃって」

 眉を八の字にさせて謝ると、暁人は「そんなことないよ」と穏やかな口調で否定する。

「気持ちは嬉しかったし、何も覚えていなかった俺が言うのもなんだけど芽依と一緒にいたら楽しそうだから」 

 告白を受けたのも、お遊び半分なんかじゃないよ。なんて真剣な面持ちで言うもんだから、私の心臓はきゅんと跳ねてしまう。

「なら、いいけど」
「それに彼女はやっぱり特別扱いしたいしね」

 “特別扱い”のフレーズがとてもむず痒い。好きな人の唯一だと思うだけで、それだけで満たされていくのだ。甘いのに胸焼けなんてしなくて、心地の良い甘さに酔いしれているような気分。

「・・・ありがとう。嬉しい」

 恋愛初心者の私はこんな時、どうやって返せばいいのか分からない。暁人から顔を背けて言葉を模索していると、隣からクスリと笑う声が聞こえた。

「じゃあまずは手始めに、」

 その瞬間、するりと手を取られた。

 人肌の温もりがじかに伝わってきて、突然のことに驚いた私は思わず暁人の方を見る。彼の澄んだ瞳の中に間抜けな自分の顔が写っているのが分かった。

「手を繋いで放課後デートでもしてみる?」

 ぎゅっと握られた右手。それだけで“幸せ”で心が満たされるどころか、身体全体が“幸せ”で包まれているように感じた。冬なのにぽかぽかと暖かくて、とても落ち着くような温もりである。

 もう何度も彼の笑っている表情は見たことがあるのに、今私の目の前で笑っている暁人の表情は初めて見るものだった。

 まるで、角砂糖を舌で転がしたような、そんな甘さの感じるような笑顔だ。