「嬉しい」
小さな子どものようにぽろぽろと泣き続ける私に「かわいい顔が台無しだよ」と、その指先で雫を救ってくれた。
「今度は俺から言わせて」
そしてあの日の時みたいに、その手は私の頬を慈しむようにするりと撫でた。まるで壊れものを扱うかのようなやわらかい手つきがこそばゆい。
「花村芽依さん、あなたのことが好きです。どうか卒業してもずっと僕と一緒にいてください」
「はい。こちらこそ、喜んで」
自然と重なり合う唇。彼の唇を通して沢山の幸せが身体中に流れ込んできた。
今日のキスは甘いけれど、少しだけしょっぱい。この1カ月間の様々な思いを含んだこの味を、私はこの先ずっと忘れることはないだろう。
「ねぇ、私たちも外に行こうよ」
「うん。校門のところで写真って貰おうか」
どちらからともなく手を繋いだ私たちは、共にこの始まりの場所である空き教室から一歩を踏み出した。もうこの高校に思い残すことは何もない。今なら自信を持ってそう言える。
「どうしたの?忘れ物でもした?」
「ううん。何でもない!行こう、暁人!」
外に出た瞬間、暖かい春風がぶわりと吹き抜けていく。背中を押すように力強く吹く風は、私たちの新しい明日へ導いてくれている気がした。
【完】



