そして望月くんは少し困ったように眉を下げて、こう言った。

「忘れているだけかもしれないけれど、俺たち多分話したこともなかったはずだよね?」
「話したことはなかったけれど、去年美化委員で一緒だったよ」

 一緒に当番したことはなかったけどね、そう告げるとしばらく無言の時間が続いた。そして気まずそうに「ごめん」と顔を歪めた望月くんは、そっぽを向いては頭を搔く。

「全然知らなかった、ごめんね」
「ううん。全然良いの、正直名前も知らないだろうなって思ってたから」

 同じ美化委員とはいえど、会うのは月に1回の集まりだけだった。ただ委員長と先生の話を聞くだけの会議だから、望月くんと話すタイミングも無かったのだ。
 私だって他学年や他クラスの委員会のメンバーを覚えているかと問われれば答えはノーである。

「顔を合わせる機会もなかったし、覚えていなくて当然だよ」
「それでも申し訳ないよ。その、」

 俺のことを好きだと思ってくれていたのに、とバツが悪そうに口籠る。

 私はそれよりもほとんど初対面で告白してきた相手にも関わらず、申し訳ないと思ってくれた優しさの方が何倍も嬉しい。良い人だなぁとへらりと笑みを浮かべた私は、気持ちそのままを声にのせた。