そのうち寝落ちしてたらしい。ふと意識が醒め、ワイパーが左から右にゆっくり弧を描いたのが映る。

遠くの闇空で稲光が裂けた。だがガラスに打ちつける気配もなく、にわか嵐だったか。

何気なく思ってあの女が浮かんだ。また雷に怯えて震えてたんじゃねぇのか。・・・独りとは限らねぇな。滑稽な自問自答に自嘲の笑みを逃す。

泣きそうな顔で、名前を憶えてたのが嬉しかったと言った。俺の名もすんなり出やがった。気のない男を憶えてやしない、・・・か。

どこか寂寞(せきばく)とした感傷が湧く。・・・堅気でなけりゃ、とっくに抱いてやった。俺の下で啼かせてみたい女だった。

極道者に惚れるなんざ勿体ねぇよ。

「・・・鳥居、メテオが先だ。いつもの所で降ろせ」

気が変わった。ただの気まぐれだ。胸の内で誰ともなしに呟いた。