「おはよー」

両手を上に挙げ、軽く伸びをしながら一階に下りる。
キッチンではママがお弁当の仕上げに入り、ダイニングでは、パパがコーヒー片手に新聞を広げている。

胸の下まで伸びたわたしの髪は、起きてすぐにもかかわらず、手直しのほぼいらないストレート。
毛先を手で軽く撫でつけ、席に着く。

「朝から食べたくないのに」なんて言わない。
炊きたての白米に、今日は何をのせようかな。


「うわっ。……まただよ。また着てるよ」

既に制服姿の『目覚まし時計』が、わたしの隣で箸を持つ手を止めた。

「あ、ほんとだ。また着ちゃってた」

自分の着ているTシャツに視線を落としたあと、豆腐の浮かぶ味噌汁を啜る。


高校に入学して二ヶ月が過ぎようとしている。
向かいの家に住む幼なじみの「(りつ)」が、朝からウチに上がり込むようになって二ヶ月。
こうして並んで朝食をとることが日常となった。


律はわたしのTシャツを横目で見ると、わざとらしく息を吐き出す。

ストリート系ブランドのロゴTシャツ。
スポーツブランドとのコラボ商品で、発売後すぐに完売してしまったものだ。
男の子に人気のブランドらしい。

『欲しい』を連発していた律に影響されて、なんとなく。
海外セレブにも人気のあるブランドらしく、ミーハーなわたしはパパにお願いして、ポチッとしてもらったのだ。

運よく手に入れることができたのは、このTシャツの価値をよく理解していないわたしだった。