「え、えっと……ちょっと学校に用事があって」

「3学期は、これから受験する人のために講習会やってるからね。でも、菊月さんって、もう大学決まってなかったっけ?」

「うん、決まってはいるんだけど……本を読むのに、学校がいちばんいいなって思って」

「へぇー。菊月さんって、本を読むのが好きなんだね。俺は中庭で友だちと遊びまくってるわ」


それは存じております!

もちろん、本を読む場所は学校がいちばんというのは嘘ではないけれど、私がこうして学校に来てるのは、葛葉くんに会うためだ。


「もしかして、菊月さんがいつも教室から中庭を見てるのって、俺たちの声がうるさくて、本を読むのに集中できないから?」

「ううん、そんなことないよ。むしろ、楽しそうだなと思って見てただけだから」

「それならいいんだけど。こっちもなるべく菊月さんの読書の邪魔にならないように配慮するよ」

「あ、ありがとう。でも、私は葛葉くんたちの元気いっぱいな声を聞くのが好きだから、遠慮はしなくてもいいよ」

「そうか。ありがとう、気をつかってくれて」



葛葉くんがニッコリと私にほほ笑む。


そんなの、こっちのセリフだよ。


いつも周りに気を配れる優しさ。

太陽みたいに笑う顔。


葛葉くんのそういうところに、私は惹かれているのだから。