「でも、俺がこんなことを言うのは、春花ちゃんだけだから」



――ドキッ……。


また心臓が大きく脈を打つ。

それなのに、どこか切ない気持ちになった。

葛葉くんが私のことを名前で呼ぶときは、模擬授業をしている間だけ。


葛葉くんは生徒役の私に言ったの?


それとも――。



最初は、葛葉くんといっしょにいられるだけで満足だった。

それ以上は、望まないはずだったのに。

葛葉くんのそばにいればいるほど、どんどん欲張りになっていく自分がいる。


こんな汚くてドロドロした気持ちを、葛葉くんにだけは知られたくない。

そんなことを思っていると、ふとシンくんのことが脳裏に浮かんだ。


もしかして、シンくんもこんな気持ちで私のことを想ってくれてるの?

だから、私の前に姿を現さずに、手紙のやりとりだけで我慢してるのかな……。



卒業まであと少し。

私はそろそろ答えを出さなくちゃいけない。



片想いをしている葛葉くんか。

一途に想ってくれているシンくんか。