春色の恋−カナコ−[完]

ぎゅうっと抱きしめられた手に力が込められて、私の早く動いている心臓の音が、河合さんに届いていると思うとますます恥ずかしくなってしまう。

河合さんとお付き合いを始めてからもうすぐ一カ月だけど、キス以上の事にまだ進んでいない私たち。

優しい河合さんは、きっと20歳になっても経験のない私に気を使ってくれているんだと思う。

こんな風に抱きしめられただけで言葉も出せなくなってしまう私のペースに、合わせてくれている河合さん。

ふわっと河合さんの体が離れたと思ったら、ちゅっと音をたてて触れるだけのキスをされた。

「か、河合さん…」

やっとの思いで絞り出した声に、やさしい河合さんの視線につかまって、また声が出なくなってしまう。

どうしよう、ドキドキが止まらないんだけどっ。

「大丈夫、今日はキスだけ、ね?」

「え?」

やっぱり、河合さんは優しくて。

きっと、朝まで一緒にいてもキス以上のことは何もしてこないんだと思う。

でも、だからって、泊りって!!!

明日も仕事はあるし、着替えだって持ってきていないし。

頭の中がかなりパニックになっている私を見て、すべて理解しているであろう河合さんがははっと小さな声を出して笑いながら抱きしめてくれた。