春色の恋−カナコ−[完]

「ん?カナコちゃんどうした?」

くしゃくしゃっと頭をなでられ、そっと顔をあげると眼鏡の奥の優しい瞳と目が合って。

すっとしがみついていた腕を離されたと思ったら、河合さんの両腕の中にすっぽりと納まってしまった私。

「お風呂入ろうか?」

耳元囁かれた言葉に、顔が赤くなるのがわかる。

言葉が出てこなくて、こくんと頷くことしかできなかった。

「一緒に入る?」

え?びっくりして顔をあげると相変わらずやさしい目で笑っている河合さんの顔がかなり近くにあって。

一気に耳まで赤くなった私を見て、笑いながらもそのまま抱き上げてシャワールームへ連れて行かれた。

お風呂って…お風呂!?

男の人とお風呂に一緒に入ったことなんてなくて。

おにいちゃんやお父さんと一緒にお風呂に入っていたのも、小学校の低学年までだったと思う。

確か、お母さんにもう大きくなったんだから男の人とは入っちゃダメって止められたんだっけ…。

「コ、コウスケさん!」

お風呂の前ですとんと降ろされ、にこにこしながら私の顔を覗き込んでくる河合さん。

必死でしゃべろうとするものの、うまく言葉にならなくて。

「ははは。カナコちゃん、かわいいね」

すっと、再び伸びで来た河合さんの腕にすっぽり包まれた私。

心臓は爆発寸前だし、もうどうしたらいいのやら???