春色の恋−カナコ−[完]

「香辛料はそろっているから、大丈夫」

河合さんのキッチンで、買ってきたビールを片手に料理を始めた河合さん。

私が作るつもりだったけど、どうやら私はお手伝いに徹した方が賢明なようで。

プロのような包丁さばきに見とれつつ、支持されるままにいためたり、スープを作ったり。

あっという間に出来上がった、レストランのような食卓に、思わずため息が出てしまう。

「あれ、どうしたの?」

出し忘れていたカトラリーを取りに行き戻ってきた河合さんが、なぜか私の隣に座って。

向かい合うようにセッティングされた料理を、自分の前に並び変えていた。

「隣で食べるのも悪くないでしょ?」

なんて言いながら、飲みものは何がいい?と笑い掛けてきた。

「あの…」

「ビールでいい?あ、ワインとか?」

グラスを両手に持ち、ひとつを私の前に置いてくれる。

「ありがとうございます」

少しむくれながら河合さんを見ると、首をかしげておどけた顔をする河合さん。

「はは、カナコちゃんはかわいいなぁ」

手に持っていた自分用のグラスをテーブルに置き、そのままぎゅっと私を抱きしめてくれた。