春色の恋−カナコ−[完]

「え?」

挨拶って!!!

お母さんのセリフに、横でお茶を飲んでいたおとうさんがお茶を吐き出してしまった。

「やだ、お父さん。やめてくださいよ」

慌ててティッシュを渡して飛び散ったところをきれいにしながら、なおもお母さんの質問は続く。

「どんな人かしらねぇ?コウヘイの話だと、すごくいい人みたいだけど」

「コウスケはいいやつだよ。仕事もできるし、人間的にも俺は尊敬できると思っている」

おにいちゃんが河合さんのことを、そんな風に思っていたなんて。

なんだか自分のことを言われたようで、嬉しくて顔がゆるんでしまう。

「コウヘイがそんな風にほめるなんて、いい人捕まえたわねぇ」

「うん、素敵な人だよ」

私が思っているよりも、きっとすごく私のことを考えていてくれるんだと思う。

先日の佐藤さんの件でも、私の知らないところですごく大変だったと思うし、その中でもきちんと私のことを考えていてくれて。

「カナコがねぇ…」

ぽつりとつぶやいたお父さんの声は、お母さんとおにいちゃんの会話にかき消されそうだったけど。

私の耳にはしっかり届いていて、目が合うと照れくさそうに笑っていた。

「ありがと、お父さん」