春色の恋−カナコ−[完]

あの電話の感じだと、とてもじゃないけど話し合いで解決するようには私には思えない。

「佐藤さん、きちんとわかってくれたよ」

「え？」

「佐藤さん、行動はちょっと行き過ぎていたと思うけど、本当はすごくいい人なんだ。仕事だってできるし、すごく気が回るというか」

仕事仲間からの人望も厚かったらしく、佐藤さんの行動を気にしていた人もいたらしい。

「迎えが来てね、夕方帰って行ったよ」

「む、迎え？」

なんだかよくわからなくて、抱きしめられていた河合さんの腕の中から顔を上げる。

目が合った河合さんはにっこりと笑っていて。

「そう、迎え。佐藤さんのことを必要としている人がちゃんと居たんだ」

佐藤さんの居る支社の人で、佐藤さんと一緒に仕事をしている人だという。

河合さんは、ずっと二人が付き合っていると思っていたのに、佐藤さんからのアプローチにすごく戸惑っていたらしい。

「今回のことで、カナコちゃんにはすごく申し訳なかったって謝っていたよ。たくさん怖い思いをしたと思うし、許してやってほしいとは言わないけど、謝っていたことだけは伝えたくて。俺も、カナコちゃんに怖い思いをさせることになるなんて思わなかったんだ、ごめんね」

「もう大丈夫です」

頬を涙が伝うけど、それはすぐに河合さんによって拭きとられて。