春色の恋−カナコ−[完]

話を聞いてもらい、少しだけ気持ちが楽になった気がする。

そういえば、お昼の河合さんからのメールに返事をしていなかったことに気が付き、慌てて携帯を取り出した。

定時に上がれそうですとだけ書いて携帯を閉じ、午前中の続きの作業に集中して余計なことを考えないようにした。


「浅野さん、もう上がっていいわよ?」

「え?」

いつの間に戻ってきたのだろうか。

藤井さんが私の顔を覗き込みながら、笑っていて。

ふと時計を見ると、すでに定時の時間を15分も過ぎていた。

「すごく集中していたわね」

「いえ、じゃあ切りのいいところで終わりますね」

結局最後までやり終えたのは30分後で。

帰り際に岡本部長に声をかけて、迎えが来ることを伝えてから事務所を出て携帯を開くと、河合さんからメールが入っていた。

「あ」

メールを見て道路の向こう側を見ると、河合さんの車が止まっていて。

30分近く車で待たせてしまった河合さんに慌てて駆け寄り、助手席の窓を軽くノックした。

「お帰り」