春色の恋−カナコ−[完]

パソコンをいじって書類をプリントアウトし、内容をチェックしてからシュレッダーにかけた岡本部長は、お待たせといって私の顔を見た。

「彼氏は知っているの?…河合君、だっけ?」

ああ、佐藤さんが電話で河合さんの名前を口にしたんだ。

隣のあいている椅子に私を座らせ、やさしい口調で聞いてくる岡本部長。

若くて背が高くて、ほかの社員からも人望の厚い岡本部長は、仕事もできるし話もしやすくて。

「…はい。でも電話がかかってきたのは初めてなので…」

「そうか。電話の佐藤さんの話だと、浅野さんが彼氏を取ったとかなんとか言っていたけど?」

本当のところはどうなのかな?って首をかしげて聞かれたことに、すごく驚いてしまった。

え?どうしてそうなるの?

河合さんは佐藤さんとは何でもなかったって言っていた。

私は河合さんの言葉を信じるって決めたし、佐藤さんから河合さんを取ったなんて思ってもいなくて。

「そんなことは、ないと思います」

「そうか。電話の佐藤さんのことはよくわからないけど、この数カ月の浅野さんを見ていて、嘘をつく子じゃないと思っているから」

だから、浅野さんの言うことを信じるよなんて笑ってくれる岡本部長は、すごく素敵で。

それにしても、困ったねぇなんて腕を組みながら天井を仰いだ。