春色の恋−カナコ−[完]

佐藤さんが何を言っているのか分からないけど、しばらく話をして電話を切った岡本部長は私を見るとにっこりと笑って。

「大丈夫？」

ハンカチを取り出すと、すっと私に差し出してくれた。

「あ、大丈夫、です」

慌てて自分のハンカチを取り出し、涙をぬぐう。

どうしよう、迷惑をかけてしまったんじゃない？

岡本部長を見ると、メモ用紙に何やら書き出していて。

「もし、何かあったらここへ連絡するといいよ。会社の弁護士さんだけど、相談に乗ってくれるから」

そこには住所と名前が書いてあり、その紙を半分に折ると私に差し出してくれた。

「何があったのか分からないけど、相手の方はちょっと気持ちが高ぶっているようだね」

私はそれを受け取り、岡本部長に頭を下げる。

「こういうことは、よくあったの？」

「いえ、電話がかかってきたのは初めて、です」

止まったと思っていた涙が、再び零れ落ちてきて。

我慢できなくて目頭をハンカチで押える。

なんで？

なんでこんなことに？