春色の恋−カナコ−[完]

「わ、わかれません！」

恐怖と怒りと、いろんな気持ちが入り交ざって涙がこぼれる。

「浅野さん？」

突然後ろから声をかけられ、振り向くとそこには経理の岡本部長が不思議そうな顔をして立っていた。

「お客さんからの電話？」

小さな声で私に問いかけてくる岡本さんは、涙を流している私を見て電話の相手を問いかけてくるけど。

電話はまだつながっていて、うまく答えることができずにただ首を横に振ることしかできなかった。

すっと岡本部長の手が伸びてきて私から受話器を取り上げると、それを自分の耳に押し当てて。

電話の向こうでは、まだ佐藤さんが「別れて」とか「あなたは河合君に相応しくない」などと話していて。

それを聞いて眉間にしわを寄せた岡本部長は、小さくため息をついた。

「お電話をかわりました。経理課の岡本と申します」

突然、大きな声でそういった岡本部長に私は驚いて、伏せていた顔をあげて岡本部長を見る。

「大変申し訳ありませんが、これ以上続くようでしたらこちらとしてもそれなりの対応をさせていただくことになりますが」

ちらっと私を見て小さく頷いた岡本部長。

「…ええ、そうですか」