春色の恋−カナコ−[完]

口に出して聞けばいいのに、河合さんの名前が出てきて頭の中がちょっとだけパニックになってしまう。

「そういえば、母さんから携帯に留守電が入っていたけど」

おかずを食べながらビールを飲み、河合さんから連絡のない携帯電話を持ったまま立ちつくしていた私に話しかけてきた。

「とりあえず、座れば?」

挙動不審な私に首をかしげながら、おにいちゃんが目の前の椅子を指さして。

言われるままにイスに座り、さっき一人で書いたやることメモをおにいちゃんに見せる。

「ああ、助かる。明日はデート?」

私のメモを見ながら残りのビールをぐいっと飲み切り、近くにあった鉛筆で追加で何やら書き足している。

「うん、その予定だけど…」

でも、何も決まっていないから。

河合さんにメールをしようか迷いつつ、そのままパタンと携帯を閉じた。

終わったら、連絡くれるよね。

もうすぐ終電がなくなるけど、なくなったらタクシーで帰ってくるだろうし。

「そっか。じゃあ、俺一人でやるからカナコ出かけていいよ」