春色の恋−カナコ−[完]

助手席から降りたおにいちゃんが運転席側に回り込んで、体を車内を覗き込むようにしてかがめて何やら話をしていて。

「あ…」

今、キス、したんじゃないの?

暗いのと運転席が家と反対方向なのもあってはっきりとは見えないけど。

でも、今のって…。

運転手は女性だったんだ。

なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、あわてて窓から離れた。

心臓が、ドキドキしてる。

おにいちゃんから好きな人の話をあまり聞かない私。

昔、学生の頃にお付き合いをしていた人以外に、彼女と呼べる人がいたのかも知らない。

私の恋愛に関しては、お父さん以上にうるさかったおにいちゃんだけど、自分のことは口に出さなかった。

「彼女、だよねぇ…」

こんな時間に家まで送ってくれて、別れ際に、キス。

彼女以外に考えられない。

ソファに座ってぼんやりそんなことを考えていると、玄関のカギを開けておにいちゃんが入ってきた。