春色の恋−カナコ−[完]

『コウヘイは?まだ仕事かしら?』

いつもと変わらないお母さんの声に、悪い知らせではないんだと少しだけほっとする。

「うん、今週はとくに忙しいみたいでね。今日中に帰ってくるってメールが来たけど」

ふと時計を見ると、10時を過ぎたところだった。

いくらい今日中にとメールがあったとはいえ、さすがにこの時間だとまだ会社で仕事をしているのだろう。

『そうなのね。あのね、急なんだけど…』

「え?」


お母さんの電話は、正直びっくりするもので。

おにいちゃんが帰ってきたら、電話してほしいと伝えてねと言って切れた。

「うそぉ…」

うれしくて、顔がにやけてしまう。


『夏に帰国予定だったんだけどね、少し早まったの。2週間後には帰国するから』


今、引っ越しの手続きに追われているというお母さんたち。

こちらでの手続きも必要らしいけど、それはお父さんの会社の人が済ませてくれるとか。