朝、通勤・通学者のために満員の電車の中。

すぐ隣にいたあいつの低い声に、サーッと血の気が引く。



「なぁおい、聞いてる?触ってたろ?」
「な、なんのことかな……」



普段とは違う光のない冷たい瞳で、奴は私の後ろに立っていたサラリーマンを睨んでいた。



「ふざけんなよ。こちとらお前が澪の脚撫でてんの見てんだよ」
「っ、だから──」
「ていうか、その汚い手で澪に触るなよ」



奴とサラリーマンの攻防戦。
んんっ、とわざと咳をしても止まらない。



「ちょっと、もういいからっ」



たくさんの人がいる電車の中で、変に注目を浴びたくないの!
このやり取りに気づき始めた人たちが、チラチラこっちを見ているのに気づいてる!?