逢和君のか細い声に、

木村君が「んー?なんか言ったぁ?」と聞き返す。

逢和君は少し俯いていて、前髪に隠れて表情が見えない。






「好きな人ひとり守れない人生なんて

…いらない」










…逢和君…?









逢和君が力強く片足を立てた。

その足は冗談みたいに震えてる。







「このまま、お前みたいなクズに触らせるくらいなら…っ、」







逢和君はドアの縁にしがみついて、もう片方の足も立たせる。

ギリギリと逢和君の歯軋りが聞こえる。







「寧々に触れずに、

寧々を、抱きしめられずに生きるくらいなら…!」





ふーっ、ふーっ、と獣にも似た息を吐きながら

逢和君が一歩を踏み出した。





「ッ…、!」





そのあまりの気迫に、木村君が一歩後ろに後ずさる。



「な、なんだよ!来ないでよ!」







「…っ、俺は…!」






前髪の隙間から、逢和君の強い、強い目が見えた。







「俺は、…寧々に触って、死ぬ…!!」