溺れる遺伝子

「じゅんちゃん、ごめん、アレ貸して!」

「アレって……生理用品??」

「うん、ごめん、突然なっちゃって…。」


「…ごめん…私まだ生理なってないんだ…。」

「え……あ、ごめん…」



…まだクラスメイトのなかにも生理が来ていない子がいたんだ…

たった数ヶ月前までの自分を思い出しながらヒナは静かに会話を聞いていた。

生徒数の割りにトイレの数が少ない上に、大方の学校がそうであるように、この中学でもトイレが女子同士の気の置けないたまり場だった。


男子の悪口…恋の話…ときには少しエッチな話…


しかしヒナはそんな話にまざれるはずもなく、ただただ遠くから聞いているだけだった。



「…生理いつからきた?」

「小6」

「中1」

「小学校…3年…」

「はやっ!!!!いいなぁ~」

「いや、私はすごい嫌だったよ。プール入りたかったし。」

「たしかに見学多かったよね…」

「それより男子ってさぁ~…」


女子生徒同士の会話は続く。
しかしヒナは用をたしてしまったので続きを聞くためにその場にいるには不自然すぎた。


ドアをゆっくり開けて外に出る。

一瞬だけ女子トイレが静まり返った気がした。