溺れる遺伝子

「…稲森さん」

「なんだよ…」

「…次、脱走したら施設だからね。」


「……」


「あのね、稲森さん、気持ちはわか…」


「ここにいて、なんになるの?」

「……」


優しく諭されても、もう何にもならない。
迎えに来てくれると信じた自分がバカだったのだろうか。

一瞬でも、母親を信じてしまった自分がなさけなくなった。


「あの、職員さん、」

「…なあに?」


「人間、信じると、損ばかりですね。」


ヒナの言葉には毒があった。