もう問題は解決したけど、昨日からの精神的なものや寝不足で僕たちの体調は悪く、緊急な職員会議もあるのでクラスはお昼前で終了とし、今日は絶対命令でまっすぐ帰宅することを条件にして解散になった。もしかしたら、昨日のように北沢と帰れるかと期待したけど、北沢は女子たちと集団で話しながら帰るようで残念だと……ん?残念?……何だこの感情は。

 大岸くんも狙っていたのか、女子の固まりを目で追ってるけど、きっと北沢を見ているのだろう。
 率先して席を変えて北沢の隣に動いた大岸くん。
 背が高くて賢い大岸くんと北沢はお似合いだった。

「うっちー帰ろうー」
 乙女な坂井が声かけてくれて、矢口は「うっちーの嫁か」と坂井に突っ込んでからかう。

「動画撮れてた?」
 矢口に聞くと「ダメー」って一言返ってくる。

「配信どうしようかなー」
 YouTuberらしからぬつぶやきに坂井と僕は驚いた。

「動画では伝えきれないこともあるし……映ってないのが一番ネックだ」
 笑顔でそう言うので「好きにしていいんじゃない?」って僕は答えた。

「原因はただの八つ当たりでしたー。ってーのも、なーんか弱いんだよなー」

「でも怖かったよ。めちゃ怖くて本当に殺されると思ったよ俺」

「たしかに覚悟決めたとこもあるわ。あの超音波みたいなの、どーやって出したのか知りたかったー」

「色々と知りたかったね」
 僕が言うと坂井と矢口はしみじみと「うん」って返事をした。

『色々と事情があるのさ。みんなにもあると思う』
 北沢の昨日の言葉がよみがえる。

 北沢のお父さんの話は衝撃的だった。

 僕の兄もそうだ。

 何か力になりたいと思うけど
 僕は何をどうしてやればいいのかわからない。

 何もできないけど
 そんな気持ちになるのが大切なのかな

 少しでも笑顔で過ごせる環境があればいい。

 遠藤くんに教えてもらった

 そんな夏だった。