彼女が愛したこの庭園をたとえ、幻想だとしても永遠に守り続ける。どんな形になろうともここは、始まりの場所だから。


今はもう亡き庭園だが、ここで、たくさんの物語と夢が紡がれた。宝石箱にしまわれた想い出たちが、けっして色褪せる事はない。崩れ落ちてしまった眠るように横たわる柱の上で、レインハルトは満月のような瞳をさらに大きく見開く。



確かに、花が揺れる幻想をみた。



空のように深く淡い青紫色の花の海が、風に游ぐ幻想的な風景を。庭園が魅せる今はもう亡き花の夢――それは彼女と過ごした美しい時間の再演。摘んだ花の花言葉。



『レインハルト』



その名を、永遠に忘れる事はないだろう。レインハルトは青銀色の尾を振った。嬉しい時、それは人も猫も変わらないものだ。



かつて空には庭園が在った事を、それを守る猫がいた事を、誰も知る者はいない。



しかしある旅人は不思議そうにこう語った。



「この世界にはまだまだ人の想いが与り知らない事がある。空に――美しい夜明けの庭園と、物語を紡ぐ少女。そして、守りの猫。

彼らは我々の祖先だったのかもしれないな。また逢えるといいが」



後に地上でレインハルトが遺した庭園の記録が見つかるのは、また別の話。



そしてその本に名付けられたのは――、たったひとつの花の名。



『レインハルト』



彼女が呼ぶ声が聞こえる。そんな幻想が彷徨うのもまた、別の話だ。