それでも約束したのだ。薄儚げに咲く淡い夜明け色の薔薇の庭園で。



今思えば――後にも先にも約束の言葉を口にしたのは、これが最初で最後だったかもしれない。あの時は思いもしなかった。何一つ、変わらなかったからいつもの彼女と。



「ここはわたしとレインハルトの庭園(いえ)よ。レト、ここを守ってね」



淡いローズクオーツのワンピースを纏った彼女が柔らかく微笑む。このまま、夜明けと共に解けてしまうのではないかとさえ思った。でもそれはあながち嘘ではなかった。



約束(あれ)はやはり終わりを告げるものだったのだから。ある日突然、彼女は鳥のように旅立った。稀に見ぬ蒼さをたたえた美しい空へと。



核たるものが失われたからなのか、庭園はその後色を失った。あんなに緑豊かだった場所は今では見る面影もない。なぜこうなってしまったのだろう、自分は何一つ守れていない。



彼女はすべて知っていたのだろうか?


自分がいなくなってしまった後の事も……。



レインハルトがどんなに考えても答えは見つからなかった。彼女はたくさんの知識を持っていて、星の持つ記憶や庭園の花言葉、風に乗って流れてくる(うた)の事とか。


言葉を覚え記憶し、いつの間にか物語を綴るようになった。それらはすべて彼女から得たものだった。



忘れたくなくて。


何か一つでも彼女の欠片を残したくて。



今日も綴る。


自分が亡き先でも彼女が在るように。