花が揺れる幻想をみたような気がした。

もう何もないはずのこの庭園で。



レインハルトはそんなはずはないと否定する。なぜならば、ここはもう遠い遥かな時代に滅びた場所なのだから。もう、あの花を見る事は叶わないはずなのだ。



彼女がいないのだから。



春の陽ざしのように優しくあたたかい笑顔で、いつも自分で描いた物語を読み聞かせてくれた。彼女の幻想には必ず猫が出てきた。ある時は勇敢な勇者としてお姫様を助ける猫の王子、またある時は世界を渡り歩き見聞を広める猫の物語を。


いつか自分もそんな風になりたいと思った。彼女となら、叶う気がしたのだ。



しかしそれは叶わなかった夢。



彼女はここを捨てたのだ。



彼女が望んだ世界なのに。


彼女は、自分なんていらなかったのだ。