あの歌は、蒼くんがわたしにくれた歌だったけれど。
 それももちろん、取り消しだ。
 中庭で、蒼くんは、あれ以上、教えてくれなかった。

「だって、彼に菜花ちゃんを取られたくないって思って、急いで告白したのに、そんなあいつの名前なんて、言えない。最後のいじわるだよ」

 だから、あの歌を作ったのは、わたしが想像している人なのか、いまでもわからない。

 うっかりわたしの鼻歌を聞かれたときも、蒼くんが作った歌だといったときに、彼は否定も名乗りあげもしなかった。
 誰にも言わないと、約束しただけ。

 彼は、蒼くんが大切な友人だから、それでもいいと思ったのだろうか。
 わたしに対して、誰が作った歌だと説明するほど、重要なことではないと考えたからだろうか。
 単純に、彼とは違う、別の誰かが作った歌だから、知らなかっただけなのだろうか。