千百五十年前。
中国の古都である長安(ちょうあん)。

夕日の光が見渡すかぎりどこまでも続く雲の中から現れ、赤かった、赤かった。赤の周りのオレンジ色が西の空を染めた。突然、空を破るかのような音がして、その後、妖狐たちが防御壁を再び攻撃した。

「私の為に死になさい、第一防御壁を完全突破するまでもちな」と人間の姿にしっぽを生えてた妖狐(ようこ)の王は言った。人間の姿の妖狐の王は圧倒的な比類のない誇り高きオーラを醸し出していた。野心満々な目、巧みな鼻、柔らかそうな赤い唇、艶やかな容姿は獲物を優しく包み込むようだ。

誰でも優しさがあるが妖狐の王にも優しさがある、ただこの「優しさ」は妖狐の王の体で艶やかな容姿よりもっと明るく見えてくる。その軽薄な「優しさ」を目にした「人」は、妖狐の王の「優しさ」に犯されながら躊躇なく溺れるだろう。欲しいと思う心を一層ずつ剥がされ続けるようだ。剥がされるうちに高揚感を覚えていく。

一度、気付いてしまったものは燻るように心身の奥を焦がしていき、溺れていくリスクを背負うことで徐々に快感へ変わりつつ、心身の奥に一気に「優しさ」が突入され、最終的に溺れた「人」の魂は妖狐の王の「優しさ」に閉じ込められていくのだ。

妖狐の王は溺れる人を見ても乱されることなく、妖狐たちを率いて、復讐の為に長安を占領しようと企んでいた。祓魔師(エクソシスト)たちは必死に都を守っていた。

「首領、報告です。第三防御壁が突破されました」と一級祓魔師であるシリウスは言った。

「報告です。第二防御壁が突破されました」と二級祓魔師であるオリオンは言った。

「修復可能なのか?」祓魔の首領(ドンエクソシスト)は言った。

「不可能だ。三級祓魔師まで能力を出し切りそうだ、四と五級を派遣しよう」とオリオンは言った。

「四と五級を派遣したら、俺らは妖狐の王と同じことをやっているもんだ、俺が行く。ここはお前に任せる」と首領は言った。

シリウスは裏能力を発動し、首領の引き続きで祓魔した、一部の狐に祓魔を終えた途端に首領に声をかけた。

「首領、まさかアレを使うのか?」とシリウスは言った。

「そうだ」と首領は言った。

「メンタル崩壊に気をつけろ」とシリウスは言った。

「構わん」と首領は言った。

首領は第三防御壁の突破口までまだ着かない所に神の領域の術を発動した。神の領域の術は術を発動した人と神の気持ちを共感させ、神の力を借りること。借りた神の力を収まる器でなければメンタル崩壊になる。

逆に神の力を収まるのであれば、巨大防御壁を作ることができる。しかし、敵が神の領域の術によって作られた巨大防御壁を突破しようとしたら、祓魔師は苦痛を受けざるおえない。神と気持ちの共感になっているので神も同じく苦痛を受ける事になる。

巨大防御壁と外の世界の合間にある結界は質が良いと敵からの攻撃を受けてもその攻撃は敵に跳ね返るのだ。首領は神の領域の術の中級を習得したが結界の質は不安定だった。

「どんな防御壁だろうが、私に無駄なもの、祓魔師たちはここでくたばりなさい」と妖狐の王は言った。

妖狐の王は分身を使い、首領が神の領域の術によって作られた巨大防御壁を攻撃に向かった。分身たちは獣の声を発しながら巨大防御壁に襲い掛かった。首領は結界の質が不安定と知っている為、心の準備をした。

「死んでたまるか」と首領は言った。

巨大防御壁の内側にいる一級、二級と三級祓魔師たちは全員が裏能力を発動した。裏能力は巨大防御壁を透過し、思わぬスピードで妖狐の王の身に打撃した。撃たれた妖狐の王は口から血を吐き出し、血が口元に沿って垂れていく。

同時に妖狐の王の分身は倒れた、首領によって造られた結界は意外と安定した為、分身からの攻撃を跳ね返ったのだ。分身は跳ね返された攻撃を受けた時に次々と消えた、妖狐の王は倒れた。

「皇帝への証拠とする為に尻尾を切って持ち帰ろう」とシリウスは言った。

「怨念が強過ぎるんだ、尻尾を切ったら封印だな」と首領は言った。首領は水晶の封印玉を取り出し、封印の術によって妖狐の王は封印玉に収まれ、更に封印札を貼った。突然、一匹の両性具有の金狐が首領の視界に入った、金狐は善良な狐である。長安占領の陰謀に巻き込まれたが戦から生き残った。

「俺は悪事を果たす妖怪は嫌いだ、お前は違う、二度と変な戦に巻き込まれるなよ、どこかで仏でも、仙人でもなれよ」と首領は金狐に言った。

金狐は媚びる言葉が口に出来ず、礼儀を正しく頷いて言った、「ありがとう」。金狐は前向きに走り出した。首領は金狐の姿が消えるまで見届けた。長安にいた皇帝の妻の妹に化けていた妖狐の王は封印された。一件落着という機に祓魔師は皇宮と深い縁を結んだ。

長安の為に祓魔の必要性を感じた皇帝は祓魔機関(エクソシストインスティチューショ)が成立するのを同意した。祓魔機関が成立後に祓魔師は人々に害をもたらす妖怪を一網打尽した。妖狐の王を封印の件のあれから三年後の今も案件は次々と来る、祓魔機関は暇な時間が無さそうだ。

「緊急会議だ」と首領は言いながら室内を見渡した。一人足りないと気がついた首領は部下に聞いた、「アンゼンはどこに居る?」

「弟は休憩中です」とアンシンは言った。

「弟を呼んで来い、これから緊急会議だぞ」と首領は言った。

「イエッサー」とアンシンは言った。

何分後、アンシンとアンゼン兄弟は会議室に入室した。

「す......すみません」と兄弟は言った。

「いいから座れ、時間がないんだ」と首領は言った。首領は魔王に関する資料を部下に配布しながら状況を話している、「ヨーロッパの魔王、無職、男性。各教会、祓魔の現場、家やその周辺など地域広く現れる。最近は教会の神父に追い出される記録がないがヨーロッパの黄泉の国境を越えて、長安で犯行を果たそうとしている、我々は神父に増援を要請された」と首領は言った。

なんでも主導権を握りたくなるシリウスは緊急資料を見ながら言った、「魔王を退治する為に神父と組むのは良いが、どうせ退治権を握っているのは神父だろ、なんでも主導権を握りたがる」言葉を切ると同時に資料をデスクに置いた。

いや、主導権を握りたがるのはシリウスお前だろ、と全員の心の声が一致である。

実は、三年前に祓魔機関が追うターゲットは常世の国に不法入国した事によって、シリウスはターゲットを優先に追う為に仕方なく夜勤の代理首領に常世の国の緊急入国証と紹介文書のお願いした、シリウスは常世の国に向う為に徹夜だった。

シリウスは常世の国に到着したのは午前四時であった。そこで同じターゲットを追っている神父とシリウスは初対面した。神父はその時に極秘任務だった為、ターゲットの退治権をどうしてもシリウスに渡せないのだ。神父の極秘任務を知らないシリウスは嫌々ながら神父に説得されて、退治補佐役を受けた。

朝になると、夜勤の代理首領は首領に状況を引き継ぐ時に書類発行の件も首領に引き継いた。祓魔組織と常世の国の連合行動はかなりの大行動である。書類発行を知った首領は優先に常世の国と確認を取り合うと同時にシリウスは神父と共にターゲットを退治した。

シリウスは祓魔機関に戻った後に首領はシリウスの報告無しと計画無しのターゲット追いについて激怒した。色々あったが最終的に残念ながらシリウスは永遠と神父の優しさと頭の良さは知らないだろう。

そして、今。

「シリウス、会議中だ、個人の気持ちを持ち込むな」と首領は言った。

シリウスは黙った。

「首領、書類の準備はどうしますか?」とオリオンは言った。

「事前の書類は何もない、事後の報告書のみだ、後で全員は神父の指示を受けるんだ」と首領は言った。首領はシリウスと目があった「気をつけろ」と首領は言った。

一方、祓魔機関は隠蔽性を保証する為に出入り口がないのだ。指定された壁に移動の術を発揮できれば出入りできるが、神父はヨーロッパの方なので、ヨーロッパの術は長安の祓魔機関に効かないのだ。祓魔師組織としてうまく連携できるように神父は長安の術を学んだが、まだ慣れていないので、神父は首領が緊急会議中に長安の移動の術によって天井から降ってきた。

ドーーーン
大きな音がした。

この時、緊急会議中の会議室の空気はたったの二秒で止まった。床に居る神父は人生で経験した最も長い二秒であった。

「隠蔽性がありますね、この入り口は」と神父が言いながら床から立ち上がった。

「ありがとう」と首領は言った。
首領は傍らにいる神父を前に立たせ、首領は片方に退いた。神父は緊急会議を引き継ぎ、魔王の似顔絵をホワイトボードに貼った。魔王の似顔絵を指し、「私がここに来た最優先のターゲットはこれだ」と神父は言った。

緊急会議後に祓魔機関の主力隊員である一級祓魔師は全員出動した。神父を含めた祓魔機関の全員がターゲットを追う行動中に暗号の術で交流し、暗号の術は無線機のようなものである。

「ターゲットが動いた!一班は直ちに追え」と神父は言った。

「一班、了解」と一班の班長は言った。

「二班は三つ目の信号交差点で引き継ぐ」と神父は言った。

「二班、了解」と二班の班長は言った。

一班の班長はターゲットを追う時に今追っているターゲットが怪しいと感じた。迷いもせず、暗号の術で祓魔機関に現在の情報を発信して検証した。

「一班の班長です、現在に追っているターゲットの魔王が怪しいのを発見しました。調べてください。首に付けているナンバープレートは......種類は......です」と一班の班長は言った。

「こちら祓魔機関、調べてました。種類は魔王の小型分身であり......」と祓魔機関の要員は言った。

「はい、ありがとうございます」と一班の班長は言った。

「こちら祓魔機関、ヨーロッパ側から緊急情報入りました、魔王の現在地を特定できました、現在地は......」と祓魔機関の要員は言った。

「緊急増援要請だ!待機中の二級祓魔師を向かわせろ!三級祓魔師は待機だ!」と神父は言った。魔王がIQ超高い神父を罠にハメさせるなんて、とんでもない事になった。さらに行動中の全員に驚愕させる人がいた。それは二級祓魔師のスピカであった。魔王によって夫のアークトゥルスをなくして以来スピカは今日という日を待ちに待った。

スピカはマッハ20で魔王の現在地に向かい、スピカによって魔王を逮捕した。撤収後に首領の前に置かれたのは二つの選択だった。一つ目の選択肢は、スピカが魔王を逮捕したため勲章を授与した後にスピカを一級祓魔師に昇格させるか。二つ目の選択肢は、スピカのわがままな行動が計画を乱して、スピカを三級祓魔師に降格させるか。

首領はどう選択するかを考えている。その結果、スピカに勲章を授与したが一級祓魔師に昇級させなかった。人道主義の精神である首領がそうしたのは、スピカがこの勲章の意味を忘れないようにするためだった。祓魔師の首領は次から次へと変わり、後輩達も次々と変わっていく。

一方、妖狐の王が再び世に出るのを予測した金狐は何年間もかけて妖狐の王を倒す為に勢力を育ち金狐一族になりはった。金狐一族は不死身であり、子孫代々は強くなる。更に祓魔師への恩返しとして金狐一族は祓魔師と契約し、一級祓魔師しか召喚できない霊獣になった。

祓魔師と契約した金狐一族はその目つき中に少しの誇りな光があった。光はあっという間に過ぎ去った。金狐一族には一匹の狐の額に日のシンボルが無かった。その狐は相方の祓魔師を愛していた。その狐は相方との間に子が出来た。平穏な日々であったが平穏と言う言葉から離れた封印堂(ふいんどう)には妖狐の王は復讐が失敗して、更に封印玉中に閉じ込められ、日に日に憎しみが深くなった。

時が流れ、封印玉の全体が黒いオーラが発していた。すると、月の光も無い夜に封印堂に置かれている妖狐の王の封印玉が自然に割れた。封印堂の前にいた見張り番は異変に気付き、二人はすぐさまに戦闘体制に入り、一人が首領に報告に行った。同時に祓魔師専属の助産師たちは出産器具や提灯を持ってある部屋に直行した。

見張り番によって報告を受けた首領は封印堂の前で罠を設置した。後に祓魔師たちは封印堂まで駆けつけた。封印堂から離れた山で修行中の両性具有の金狐は何かの気配を感じ、しかめっ面をした。猛烈な気配によって金狐の修行を中断せざるを得なかった。

「私だけじゃない、他の方の修行も強引に中断させるほどの気配はやっぱり強い威力である」と金狐は言う。金狐一族はすぐにでも妖狐の王が世に出るのを阻止したいが祓魔師と契約があり、祓魔師に召喚されるまで金狐は必ず待機であった。妖狐の王は強引に封印堂の罠を突破した。

「私はやっと生き返った、祓魔師は私を閉じ込めたのにあれから進歩がないなあ、所詮人間はこの程度だ。こんな罠で私が引っかかるとでも思っているのか」と妖狐の王は言う。

妖狐の王が完全に世に出たと同時に部屋に居た祓魔師は子どもが産まれた。その子は不死身の能力と祓魔師の能力を持っている、外見は普通の子と変わらないが助産師は尻を叩いてもなかなか泣かないだった。部屋の外に居た妖狐の王は見知らなぬ気配に気づいた。不死身の能力を欲しがる妖狐の王は生まれて間もない祓魔師の赤ちゃんを一瞬で奪った。

「封印玉の中で罰を受けた私は自由である、私は無数の命を持ち、生まれ変わってから更に強くなっていたが死んで生まれ変わる度に死ぬの痛さが毎回よりも強烈になる、この子の能力があれば完璧」と妖狐の王は片手で赤ちゃんを抱き、もう片手は撫でながら言う。

祓魔師たちは赤ちゃんを助けてたい気持ちで前進したが、妖狐の王は赤ちゃんを人質にした。赤ちゃんを撫でた手は毒針を持ち、毒針の先端を赤ちゃんに向きながら妖狐の王は言う、「人間どもは来るな、来るとこの子の喉を貫くよ」

祓魔師たちは赤ちゃんの為に足を止めた、首領は冷静に考えた、今は妖狐の居る方向は分かるが月の光もない今に戦うのは勝ち目がないのだ。その後、祓魔師たちは何度も赤ちゃんを助けに行ったが、結果は部下を損失するか、引き返すばっかりだった。なぜなら、長安占領の陰謀が潰された以降に妖狐の王はアジトを持っていないからだ。祓魔機関は赤ちゃんを助けるのを失敗した事によって、内通者が居る疑惑を経た。

時が流れ、妖狐の王は気配を隠すのがますます上手くなっていく。妖狐の王は赤ちゃんにも気配を隠す為の術を下した、祓魔師たちは妖狐の王と赤ちゃんを探すのはより一層困難になった。長い年月を経て、妖狐の王は歪んだ価値観とともに気持ちも変化した。

最初、妖狐王は赤ちゃんの不死身の能力を欲しがっていただけであったが、赤ちゃんと付き合っていく中で妖狐の王は母親の気持ちを触発された。赤ちゃんは祓魔師以外の敵に奪われそうな時、触発された母親の気持ちが爆発して、何回も赤ちゃんの代わりに死んでいた。また、時が流れ、赤ちゃんは妖狐の王によって育てられ二十歳に成長した。

妖狐の王はもう死ぬ痛みを感じたくない、その為に今持っている能力と強さを捨てても良いと決心した妖狐の王は錠剤を調合した。錠剤は未完成の物である。二十歳に成長した子は錠剤を誤飲し再び赤ちゃんに戻った。


今、その子は十五歳に成長したが錠剤によって記憶喪失になり、体も十五歳で成長が止まり、不死身の能力も失った、祓魔師の能力も錠剤のせいで封印された。永遠に「普通」の少女のままである。少女は妖狐の王に対して娘としての信頼があった。極めての信頼と依存は少女が溺れた。










妖狐の王は少女のそばに駆けつけ、少女を抱きしめて悔しそうな表情をした。妖狐の王は少女に対して復讐に関係なく、自分の子にした。ただ生きさせたくない一心で早めに殺めなかったことにより悔しいのだ。妖狐の王の残酷さと偏執、そして妖狐の王が自分の隠せない結末を知ったからだ。

自分と少女の関係が他人に知られるのが想像にもできない怖かったのだ。もし、感情に欺瞞と祓魔師への復讐の喜びが混じっていることを少女に知られた時、少女がどれほど絶望なのか?憎むでしょう?離れるでしょう?だから、妖狐の王は少女が死ななければならないと思っている。

みんなが死ぬ前に最初に死んで欲しい。少女が真実を知らないうちに愛に満ちた幻境に浸って欲しいと自分の手によって死なせるのは失望と絶望させるよりよっぽど良いと妖狐の王は思っている。しかし、少女は最初から妖狐の王が自分を殺す計画を知っていた。それでも少女は妖狐の王を信頼し続けた。自分は妖狐の王の手で死ぬことができると信じているのだ。

妖狐の王は少女の喉を切り裂いた。
濃厚な血は流れて、まるで色とりどりの湖のようだ。少女は赤で美しい野薔薇のように咲き乱れる。少女の口元が少し幸せそうに微笑んでいた。目が開けたままであった、人生最後の瞬間は妖狐の王の姿を見たかった。

やっと目に入った......

妖狐の王はそっと少女の頭を持ち上げて、少女と見つめ合った。少女の唇にキスをした。




妖狐の王の理解では生きている人が一番苦しいからなのだ、死んだら生まれ変わりつつ、もう一度最初からやり直せるからなのだ。少女の記憶はきっと長安から旅立つ頃に始まるだろう、それも少女にとっては良い事かもしれない。

少女の名は、