次の日。
マーガレットは王宮に向かっている。日差しの中で優雅な馬車はゆらゆらと王宮のに近づき、窓は白いカーテンに遮られ、外の人は馬車中を探ることができない。馬車に乗っているマーガレットは外が見えるのだ。

外の景色を見ながら色々を考えているうち、あっという間に王宮に着いた。マーガレットはゆっくりと馬車から降りた、応接間まで歩きいた。王宮のレキナは応接間のドアを開いた。女王に謁見する専用の応接間は企業の殺風景な応接室と違って、立派なインテリアと大きく金のフレームが付いている絵が壁に飾られ、平和な太陽の光を感じる絵だ。

絵の真下に小さいテーブルがあり、テーブルの真中に透明な花瓶が置かれてある。花瓶中にピンクの満開の花が挿され、茎についている緑の葉はとても心地良く見える。花を交換する度に花瓶中の花は違ってくる。花瓶の両側に親族の写真が飾ってあり、実に暖かいのだ。そして、絵の横下の壁側にある暖炉は古代の神殿のような荘厳な雰囲気だが重厚な物に見えず、応接間の空気も、人の心も、優雅に暖かくするのだ。

暖炉の上にいくつかの装飾品が置かれ、装飾品は個性が引き出さられているが乱れることがない。暖炉はアンティークな椅子に囲まれて、ゆっくり過ごせる雰囲気だ。床は清潔な真赭(まそお)色に白い模様の絨毯が敷かれてある。応接間の空間はロマンチックな特性と身分、地位、尊貴と権力を象徴している、とても迫力があるのだ。

絵に少し離れた所にもう一つ小さなテーブルがある、テーブルの上に家族との他の写真が飾ってあるのだ。写真以外はそこに春の訪れを感じさせる和ノ帝国と違った大きいピンクの鈴蘭が置いてある、繊細なベル型の花は古くからナサーズ帝国の王族とゆとりが深く、母の愛と純潔の象徴なのだ。

マーガレットは応接間に入り、椅子に腰を下ろさず女王が来るまで待ち、女王は後に応接間に入った。マーガレットは女性の宮廷作法の最高格であるカーテシーと言われる挨拶をした。右足の膝を左足の膝の裏に入れ、膝を曲げた、背筋は伸ばしたまま両手で正装ドレスの端を少し持ち上げ、体をかがめた、目線は相手の膝を見ている。

「ナサーズ帝国の太陽及び帝国の母に謁見いたします」とマーガレットは言う。

ナサーズ帝国では国王が太陽と称えられ、王妃が月と称られる。女王も太陽と称えられるが、女性であるため挨拶の言葉に帝国の母と加えるのがルールなのだ。

「礼を免じるの許可をする」と威厳のある女王は言う。

「感謝いたします」とマーガレットは言う。会話の礼儀では女王に話しかけられるまで口を開いてはいけないのだ。

「あの要件は容易なことではないわ」とマーガレットの気持ちを察した女王は言う。

「しかし、私はとても心配している」マーガレットは女王が座った後に椅子に腰掛けた。

「あぁ」マーガレットの考えを見ぬいた女王は顔に難色を示した。

胸にこっそりと忍び寄る灰色の雲が空気に広がり、徐々に黒い雲になっていく。胸の雲を取り除こうとしたマーガレットは女王の言葉を聞き何かに気づいた、「王宮の趨勢(すうせい)がこのままだと......」

女王は少し首を横に振った。
「マーガレットが言った通りでもあるが、問題は見えない壁だ」と女王は言う。

「見えない壁とは?」マーガレットは疑惑した。重い空気と胸のはっきりしない雲のダブルパンチで陰鬱になりそうだ。

「あの見えない壁は薄い言っても薄いだけども、厚いと言っても厚い、どちらかと言うと本人次第だわ」と女王は言う。

「見えない壁......」マーガレットは胸の黒い雲が拭かれたようであるが、心の中でまだ何かを考えているようだ。

「本人は気づいていないかもしれないけど、しかしこのままだと......本人のやるべきことは本人の心によって阻まれるわ、それに北帝都には前国王が育った軍隊の残党がまだいる、暴動気味である」と女王はため息をした。

マーガレットは女王の言葉を聞き確信した、「難しいですね、北帝都にいる残党は全て前国王の忠実な腹心であります」

ここで絶対に本音と頭の良さ示してはならない、じゃないと北に派遣される。南帝都はこんなに安らかで誰も北には行きたくないはずとマーガレットは思う。暖炉の揺らめく炎に薪の焼く音が聞こえる。

「ええ、腹心ね......前女王は以前の勢力を一掃するだけでなく、帝国もこんなによく発展させ、前女王も大変だったよね」と女王は言う。

「そうですね、ここまで発展したのも女王様のお陰でもあります」とマーガレットは言う。

「敏腕な前女王も前国王の心腹を捉えなかった、私のところでは一網打尽でなければならない」と女王は言う。再び薪の焼く音が暖炉から聞こえ、薪に燃え上がる炎がより赤くなっている。

「前国王の腹心は我々のものにしましょう」マーガレットは言う。マーガレットは危うく本音を言うところだった。

「そんな簡単ではない、忠実な心を示した残党は前国王に対して裏切りするような真似はしない、分かったわ、人を派遣するよ」と女王は言う。明らかに女王はマーガレットの本音を分かった上にかわいがる。

女王は再び笑顔になった、その笑顔に隠された深い意味は女王自身しか分からないが気持ちも、空気も反転し、応接間に似合う雰囲気になったのだ。女王は退室してからしばらくすると暖炉の炎は消えていた。

マーガレットは帰りの馬車に乗り込み再び考え始めた。庶民と貴族の価値観の違いどこから手をつければ良いのか。しばらくの間は様子を見ように決めた。考え事をしているうちに今までの自身のことを思い出した。

マーガレットは軍人と宮廷医師でありながらの女公爵なのだ。父は軍人である公爵のフィップス・キャヴェンディッシュであり、母は初代の女軍医である公爵夫人のソフィア・キャヴェンディッシュなのだ。

フィップスとソフィアは戦に負傷者を野外で治療する大規模な移動式救護施設である野外病院で出会った。マーガレットの小さい頃はほとんど野外病院で過ごしたのであった。おもちゃは針なしの注射器だった。

母や周りの人と医者ごっこすることが多かった、医者ごっこしているうちに人体に興味を持つようになり、白い世界で知的好奇心を刺激されたマーガレットは文字の練習、人体知識や地形図を勉強していた。

四歳時に休戦であった為一家は帝都に戻り、ソフィアは公爵夫人の称号を与えられた。マーガレットは屋敷で乳母に育てられた、貴族としてのマナーを学び、屋敷でも勉強を続いた。

五歳でエスカレーター式の軍人養成校の医療コースに入学し、教育期間は十年あまりだが優秀な成績、能力と評価されて飛び級で五年間で首席卒業した。十歳で医療支援部隊候補生に選抜されたがあまりに若すぎるので見習係になった。

このまま間違いなく二代目の女軍医になるはずだったが、十一歳頃に父が敵軍に捕われたの悲報が届き、マーガレットは全力で父を探してたがどこにもいなかった。

家族と自身の身も守れないのに人助けをやってられるか。父を探す為であり、父よりも優秀な軍人になろうと言う理由で父がいた前線部隊に入部を申し出た、どう見ても無理なことであるが、一旦、軍人養成校の陸軍コースに入学した。これでマーガレットの医療生涯はコンマをつけた。

フィップスの優秀な軍人の遺伝子なのだろうか、ソフィアの願いなのだろうか、マーガレットは十二歳でまた首席で学校を卒業したのだ。その後、北帝都に派遣されながら父と母を探して回った。

父はいなかった。母もいなかった。失望感が絶望感に変わった。耐えられなかったマーガレットは自分自身ではなくなった。最前線で大人が唖然する程の最優秀な戦績を残した。軍人としてフィップスの優秀さに遥かに超えているので前線部隊を率くことになった。その勇姿を父と母に見せたかった。しかし、そこに父と母はいなかった。

父と母がいない絶望感と居て欲しかった気持ちにこんな姿じゃなかった筈なのにこんな形で人生の最高峰に着くなんて。マーガレットの心が抉られたかのように葛藤は誰にも話せなかったが総司令官は気づいたのだ。マーガレットのその姿と気持ちは総司令官に好都合であった。

十三歳で所属部隊に推薦され軍大学に入学したが三年後に戦は終わった。これで新しく始まるだろうか。

父と母を再び探した、どこにもいなかった。
乳母もいない。
父と母は今も行方不明である。
きっと天国にいるだろう。

豪邸は戦で破壊されているはずだが、残されていたのは意外であった。
それにして、この戦は何の為だったのか?
それは王位継承をめぐる戦いだ。
貴族は負傷多数である。

戦後、マーガレットはいつか父母と乳母との再会を信じていながら医療生涯を再開した、よく小さいランプを手にして、静かさと暗さの中で病人たちのベッドを見回りしていたのだ。同時に王室の四人兄弟のうち、長女の意思決定により長男が退位した。

戦の発端になった王位簒奪のため反乱になった次男は処刑されないように逃亡中である。長女である前女王と次女である女王は二人で協力して、残局を収拾しながら八年間かけてナサーズ帝国を大金持ちに発展させたのだ。

今のマーガレットは静かに屋敷で暮らしたいのだ。突然、マーガレットが乗った馬車は急停止した。まるで骨がない動物のようにぐらりと体を大きく揺らせて、横の窓にもたれかかりそうになった。考えことをしていたマーガレットは夢から現実に引っ張られたかのように気が戻った。

馬車の外の人がざわつく中でマーガレットは馬車から降りた、目に映ったのはプース夫人の馬車だ。プース夫人はマーガレットが馬車を降りたのを見て自分も降りた。

「プース卿、お怪我はありませんか?」とマーガレットは言う。

「恐縮です。私は大丈夫です。キャヴェンディッシュ女公爵はお怪我ありませんか?」とプース夫人は言う。

「ええ、私は大丈夫。プース卿は怪我なくて良かったです。お先に失礼します」とマーガレットは言う。

マーガレットは再び馬車に乗り込んだ。危うく事故を起こすところであったことと庶民の前で貴族の良いイメージと名誉を保つ為でもあり、ただの挨拶でも不可欠なのだ。もちろん、スピード違反したのはマーガレットではない。マーガレットは最近に危険な事ばっかり遭うのだ。

衝突になりそうな馬車事件はメアリーが意図的に事故を起こそうとしたのか?それとも、不注意である偶然なのか?マーガレットは疑いが湧いた。そして、一週間前にあった王宮での爵位を継承の場の罠の騒動は北帝都の残党の暴動の前兆なのか?

女王は即位してからまだそんなに経っていない。女王の敏腕な腕前は世に知られいないのだ。帝国を大金持ちまで発展したのは全て前女王の功績であると世に知れ渡っている。もし、北帝都の残党がここで女王にらみをきかせるのであったら女王は危険だ。


逆に考えると、もし、あの騒動はメアリーが三大傑出女性に選ばれた自分に対しての嫌がらせであったら放置すると自分も危険だ。なぜなら、メアリーは前国王の愛人である。前国王の床(とこ)を占拠して間もなく勲位を授与された愛人である。ただものではないの上に非常に残念な女なのだ。

王宮の騒動と衝突しそうな馬車事件は誰の仕業なのか?マーガレットはまだ判断できないのだ。時間が過ぎ、マーガレットは屋敷に着いた。今日の乗馬レッスンを終えたエマは貴族を侍るのテーブルマナーのレッスンを受けているのだ。マーガレットは侍女長からエマの現在地を聞き、晩餐会スタイルのテーブルの間のドアを開けた瞬間にエマのふざけた歌声が聞こえた。

「ちゃららら〜」とエマは歌う。

「はっ!キャヴェンディッシュ女公爵!エマ!行動を慎みなさい」とマーガレットを見たバーバラは言う。

エマを見たマーガレットは優雅に微笑した。

一方、生意気で狂いそうなメアリーは前国王から賜った屋敷に帰り、心に鬼に飼ったかのように馭者に言った、「マーガレットが憎いの、しかも勲位を引き継いたの、マーガレットの馬車を見かけたらスピードを上げなさいと言ったでしょう」

一週間前にエマは新人使用人として豪邸に入った日にマーガレットは王宮で三大傑出女性の称号を与えられ、勲位を引き継いだ。

「申し訳ない、夫人の安全のためにそれはできぬ」と馭者は言う。

「では...あなたは私の安全のために何でもするのですか?」とメアリーは馭者に聞く。

「夫人の安全の為なら何でもします」主(あるじ)に誠実な心を持った馭者は右手を心臓に当てながら言う。

メアリーは再び歪んだ考えを抱き始めた、「よろしい、今私の地位、財産と名誉の安全はある子の存在自体によって脅かされているの、保身のために頼みたいことがある」

「誰に脅かされてるですか」と馭者は言う。

「エマ・ゴロータは知っているかしら」とメアリーは言う。

「あの子ですか、貴族でもないのに侍女に成り上がって、社会で傑出(けっしゅつ)した女公爵が貧乏人を愛人にしている、まさかこんなに卑しいことをするなんて」と馭者は言う。

「まあまあ、あの子はつい最近から乗馬のレッスンを受けているの、あの子がいつも乗る馬に薬をあげて、なんとかして崖までに連れてきて、馬は体調が悪い時にあの子を崖から突き落とすこと。そして、あの子が崖から落ちたことを馬のせいにする。

これは昔に殺し屋として紅葉と言う名を馳せたあなたにとって簡単なことでしょう、ハレル・チャールズ」と憎しみに目隠しされた上にコントロール欲が強いメアリーは言う。

表は馭者、裏は傭兵であるハレルは主人に忠実な心を示す為に殺し屋の本性によってメアリーの任務を承諾しよとしている、また、馭者の報酬とは別報酬なのでハレルはメアリーに適切な報酬を払わせることを考えているのだ。

「あなたはもう一度紅葉と言う名を馳せてみないか」とメアリーはハレルに聞いた。

「もう一度も悪くない。今からは俺のやり方でな」とハレルは言う。

「この私にこんな口の聞き方をして、度胸があるね」とメアリーは言う。

ハレルは無言。

「いいわ、あなたのやり方でいいよ」とメアリーは言う。

ハレルが沈黙した時にメアリーは威圧的な恐怖感が頭に刻まれたと感じた。そして、あることに気づいた。それは、今まで当たり前のようにハレルに不満をぶつけて、見せびらかしたきたが、しかし、馭者はハレルによって虚構なものであったと。そう、ハレルは馭者を演じていたのだ。

「あなたが妻を娶らなかったでしょうし、私も夫を亡くした、あの子を殺めた後にこの私はあなたのものよ」とメアリーは勇気を出して言う。

ハレルは壁に寄りかかり再び無言。
メアリーは黙った。

ハレルは煙草を口に咥え吸殻に火をつけた。煙草を吸った。口から灰色の煙を吐き、煙は人を奈落へ誘う悪魔の囁きのように空気に消える。ハレルはメアリーに本気で惚れているだろうか?それとも、ただの都合の良い女として見ているだろうか?ハレルはメアリーの話を聞いて心で嬉しかった。

殺し屋であった残忍な心のハレルは敵に追い詰められ、メアリーに助けてもらった。その後のハレルは気が軽くになっているようだ。ハレルは優しいかったメアリーを見て、優しい心に憧れそれが芽生えた。メアリーの優しさのため初めて愛慕に触れたが心の奥は閉まっている。

誰もハレルの心に入ることはできないのだ。そう、いくら気が軽くになっていても根っこは殺し屋なのだ。メアリーとハレルはお互い視線を合わすことなく、残酷な静寂は空間に満ちていき二人の色を褪せらせた。一瞬、ナサーズ帝国も色褪せたようだ。

この国では国王を征服した貴族ではない女が色々な面からみて一般人ではないのだ。その一般人ではない女が貴族の人妻なることはナサーズ帝国の男にとって光栄なのだ。
たとえ、悪女でも。

メアリーは悪女ではなかった。メアリーは絶世の美女とは言えないが、それなりに魅力が溢れているのだ。オレンジ色の髪に顔は彫刻のように顔つきがはっきりしていて、高い鼻と赤い唇。放蕩で多情に満ちている外見。それがメアリーである。今、ソファーに座っているのだ。

心の中に残されている前国王の幻影はずっと消えないこそ再び愛に触れたいである。マーガレットの高貴さを欲しいメアリーは貴族に認められたいである。脅かすものを排除するメアリーである。欲求を重ねてるうちに虚しいものを求めるようになり、失意が恨みに変わり、また深い執念にはまっていることはメアリー自身知らないのだ。

高貴を求めたメアリーはハレルを殺し屋であると知った上で孤高な光のようなマーガレットの高貴な身分を奪えられるなら、どんな代償でも構わない、悪魔に魂を売っても、三途の川も渡ってもいい。メアリーの深い執念が悪魔を呼び出したのだ。それは、深淵の王と呼ばれ、世を滅ぼすと人を奈落の底に落とす力を持つ、アバドンである。心が悪魔に奪われたメアリーは放心状態になり、アバトンの姿を直視してソファーで気を失った。

「解放された」とアバトンは言う。

アバトンはソファーで仰向けになっているメアリーの前に行った。

この時、メアリーの魂は幽体離脱して彷徨っているうちにブラックホールのような底無しの穴に来た、底無しの穴は堕落した天使のためのものである。メアリーの目の前に現れたのはアバトンに千年も閉じ込められ、火の湖の裁判を待っているサタンだ。

サタンを縛る専用の鎖がぼんやりと見えている、鉄柵に近づこうとした時のメアリーは地獄の空から落ちた息に深く衝撃を受けた。その息は、アバトンが現実にいる肉体のメアリーの顔に吐いた灰色の息である。息の衝撃により目覚めたメアリーの瞳は美しかった青色からアバトンと同じ色の瞳になっていく。

そう、悪魔の緑色である。緑色の瞳のメアリーはハレルが寄りかかった壁の方向にギョロと見た。ハレルは既に消えている、消えていた場所に灰色の煙が薄く残っている。

「契約しよう」とメアリーの視線はアバトンを見ながら言う。

「本当にいいのか?」とアバトンは言う。緑色の瞳と赤い唇のメアリーは妖艶に見える。

「構わないわ」とメアリーは言う。

「僕と契約するには条件付きだ」とアバトンは言う。

「どんな条件なの?」とメアリーは言う。

「サタンを解放してはならない」とアバトンは言う。

「ならば、こっちも条件があるわ」とメアリーは言う。

アバトンは無言。
無言時のアバトンのオーラはハレル並み、いや、それ以上だ。

「前国王は私との約束を果たしていない、前国王を蘇らせるの」とメアリーは言う。

「無理ではないが、前国王が蘇らせた後にすべての願いが叶ったら代価を払うべきだと受け取る」とアバトンは言う。

「代価とは?」とメアリーは言う。

「体と魂だ、豊満な体に千年に一度の成熟した悪の魂、その悪の魂はきっとサタンも欲しがるだろう」とアバトンは言う。

この時、屋敷の外はあっという間に黒い雲が立ちこめ、雷が鳴り稲妻が走り、激しい風雨が交錯する。近くの河水も氾濫そうなのだ。
メアリーの部屋はいつの間にか外の風と違った灰色の怪しげな悪魔の風が吹き、冷ややかになっている。空間は悪魔の風に包まれているのだ。

「今度、悪の魂の匂いを嗅ぎサタンが脱獄しようとしている」とアバトンは言う。実は、サタン一度は脱獄しようとしたのだ。これで二回目だ。床に地獄への入り口が現れ、入り口は緑色の光に囲まれている。アバトンは急いで地獄に戻った。

屋敷の前に通った奉公先に帰る途中のエマは緑色の光を見えた。街の人々は空模様を見ていて、うっかり緑色の淡い光を目撃した。マーガレットも自宅の屋敷の窓から緑色の淡い光を見えた。

次の日。

人曰く「昨日の緑の光を見えたの?」

人曰く「見えたよ、あの方向でしょ、あれは悪魔の色、きっと変な儀式をやっている」

人曰く「変な儀式やらなくてもあの女は悪魔よ、娼婦の娘だから悪魔の子よ」

街に出かけているエマはうっかり隣の人が話しているのを聞いた。エマは噂をあんまり信じない人であるが、しかし、小さい頃に親友が悪魔に取り憑かれていたのを見たエマは、儀式と悪魔の子を耳にしたことで怖くなり買い物もせずに奉公先に帰ったのだ。

これは副侍女長の屋敷で起こったこと、同時にエマのそばで起こったことでもあるので、エマは不安である。マーガレットは不安なエマを気にしている。気分転換のために、マーガレットは庭園で花鑑賞に誘った。

エマは庭に行った。
たくさんの花が咲いている。暖かい日差しの下で、花が艶やかなるほどに咲く。エマは鑑賞の気分ではないようだ。緑色の光のせいでその不安は誰に対しても口にできないが、マーガレットにだけ言った。

「御主人様......」とエマは言う。

「どうしたの?」とマーガレットは言う。

「副侍女長の屋敷の前で緑の光を見えたです」とエマは声が震えそうなのだ。

「気のせいだよ、最近、エマは頑張り過ぎているから少し休んだほうがいいよ」とマーガレットは言う。

「多分、気のせいなのかな、街の人が副侍女長を悪魔の子であると言う」とエマは言う。そよ風がエマの頬を吹き抜ける。

「街の人が言っている事は信用ならない、プース夫人はいつも通りだよ」とマーガレットは言う。

エマはマーガレットの言葉を聞いて、ほっとしていく。不安から逃れそうなエマは目に庭園の花が映った。サンシキスミレを見てぼんやりしている。鳥の鳴き声で目を覚めた。

「エマ、大丈夫?」とマーガレットは言う。

「大丈夫です、御主人様がおっしゃった通り私は疲れています」とエマは言う。サンシキスミレが風の中にゆらりと揺れている。

「休暇許可をする、心が安らかになってからまたお仕事きてね」とマーガレットは言う。

「ありがとうございます」とエマは言う。

庭園で花を鑑賞するつもりでいるだが、マーガレットに不安を話してもエマはそう言う気分ではない。マーガレットはエマに言った、「ゆっくり休みましょ」

エマとマーガレットは室内に戻ったあと、庭園は強風が吹き、花弁が次々と落ちていく。
エマは休暇のことを侍女長に話したあとに使用人の寝室で荷物を片付けていた。侍女長はエマを門扉まで送り、門扉を出たエマは再びそよ風に当たる。

さきのマーガレットとの会話ではわざと自分を休ませたようでとても疑わしいのだ。それにエマは図書室で勉強していた時、偶然で自分がキャヴェンディッシュ公爵一家と一緒に撮ったモノクロの写真を見つけた。

その写真は外国語の本に挟まれ、本は外国語の本棚の上に置かれてあった。エマの記憶では使用人として来た以外に豪邸に来たことがない。エマはこの写真のマーガレットの隣にいる赤ん坊が確かに自分だと気づいた。事実も写真の中の赤ん坊は確かにエマなのだ。

写真についてエマは絶対に黙ったほうが良いのを知って、勉強とレッスンの合間にこの写真と豪邸に関する情報を密かに集めた。しかし、情報が少なすぎるの上に豪邸ついてたくさんの疑問があり、休暇している間に事をはっきりさせたい。

自分の疑問を解くためである、周りの疑れないようにわざと豪邸を去ったのだ。エマは街である婆さんと知り合った。親切な婆さんは落ちぶれの貴婦人なのだ、その姿は成り金よりもよっぽどに貴族に見える。ナサーズ政府は落ちぶれた貴族を養わないので婆さん一人で茶葉の商売をしている。

エマは旅人に装い、旅事情をお婆さんに話した。旅事情を聞いた婆さんはエマを引き取った。エマは暫くの間はそこに泊まるのだ。婆さんの宅はマーガレットの豪邸と比べるとほど遠いが、今までない安心感が感じられる所だ。まるでエマと婆さんは孫娘とおばあちゃんのような関係だ。

それでもエマは他人の宅で無駄に食べたり飲んだりするのが恥ずかしく、自発的に家事を手伝ったり、徐々に婆さんの店舗の手入れをするようになった。エマにより商品も結構売れている、婆さんの商売はますます繁盛していく。エマの有能さで婆さんは利益から一定の割合でエマに金を分けた。

エマは嬉しいのだ。
母から貰った三十万ビーまだ使っていない、豪邸で侍女としての給料を加えて金が増えていくだけであるが、これから金を使う生活になるだろう。ある日、エマはいつものように家を掃除している時、ベッドの下から手紙を一掃し、手紙はK夫婦に宛のものであった。

手紙の内容は、戦が収まらないの上に意地が収まらないです。既に重病で約束に赴くのが不便である、託したものは保管するのをお願いします。もし、不便でしたらチャイナタウンで骨董品店を経営するリーに渡してください。リーは信頼できる人です。宜しく頼みます。ゴロータ・エマより

エマの顔色が変わり始めた。
そこには、エマの名前が書かれていたのだ。しかし、同名の可能性もあると考えた。エマは手紙を隅から隅まで見ている。手紙にあった印に気づき、どこで見覚えのある印だ。

今まで集めた情報を小さめのノートにエマは記録した。エマが今回の新たな情報を記録している最中に婆さんに見つかられた。婆さんはテーブルの上に置かれた手紙を一瞥した。

「エ...エマに見つかったなんて」と婆さんは言う。

「どういうことですか?」とエマは言う。

「真実を伝えるときが来たようだね」とお婆さんは言う。

「真実とは?」とエマは言う。

「その真実は千百五十年前にも遡る話」と婆さんは言う。婆さんは椅子に座った。向かいの椅子に座っているエマは茶具でお茶を淹れながら静かに話を聞くである。