「へえ、そんなことがねえ。 ――確かに球技大会でそんなことがあったような気もするけど、ごめん……それが亜弥さんだって記憶がないんだ」 かいつまんで話した亜弥に、寿生は申し訳そうな顔をして頭を下げた。 「いえ、いいんです。 私は当事者だから覚えていただけで……」 改めて、寿生の顔を見つめる。 あの時より、わずかに年は重ねているものの、寿生は当時に近いままだ。 ――笑うとできる皺、優しく見つめる眼差し、そして国語の教師らしい、丁寧な言葉使い。 数年の時の経過など微塵も感じさせなかった。