チャイムが鳴り、答案用紙の入った茶封筒を抱えて教室を出る寿生を見送った亜弥は、教卓の上にある小さな時計を見つけた。


あれは、溝呂木先生の時計――。

テスト中、何度か手にして眺めていた姿を思い浮かべた。


亜弥は立ち上がってその時計を掴むと、廊下へと飛び出した。


先生とお話できるチャンスだ……!




寿生が廊下を曲がった。

追いかけていた亜弥は、寿生の姿が見えなくなった途端、急に足を止めて立ち止まった。


これを持っていると、なんだか溝呂木先生が私の側にいてくれている気がする――。


ポケットの中で握りしめた懐中時計に、寿生の存在を感じた亜弥は、そのまま振り返ると自分の教室へ戻った。