それなのに、一瞬の間のあと聞こえてきたのは……。

『あー、残念。乃愛じゃなくて悪かったわね。つか、アンタ。あたしの親友の唇を奪ったんだって?』

 ……っていう、乃愛とは似ても似つかない、愛想がなくてわりと大きな女子の声。

『……は?』
 
 誰だよ、おまえ。

 あ、でも、乃愛のことを“あたしの親友”って言ってたな。

 しかも呼び捨てってことは……野々原……いや、野々山か?

 そう思ったのと同時に、

『好きなんでしょ? 付き合いたいんでしょ? それとも、もう、彼女だと思ってんの!?』

 野々山は、キャンキャンと大声でがなりたてた。

「うっせー」

 そんなの、言うまでもない。

 大好きに決まってんだろ!

 つか、そんなに大声でわめきちらしたら、聞かれんだろ、煌河に。

 さっきまでガンガン音楽を鳴らしていたクセに、俺が電話に出たとたん、すかさずボリュームをゼロにしやがって。

 聞く気満々なのが、丸わかりなんだよ。

 これ以上、野々山と話してらんねー。

 通話を終わらせるために、画面をタップしようとした。