でもいくら近いといっても、車で送ってもらって兄が仕事に遅れても困るという理由をつけて、俺はその場で何度も断った。

 それなのに、12歳年上で男3人兄弟の長男・煌河は、にっこり笑ってこう言った。

『家から病院だって近いんだし。その前に、ついでに王河くんを送っていく余裕ぐらい充分あるよ~。それに俺は、王河くんをひとりで外出させるほうが心配だな~』

『ひとりで外出って……。いつも普通にしてるだろ。つか、俺、もう16歳なんですけど』

『いやいや、まだ16歳だよ。お子ちゃまだよ。いいからお兄ちゃんに任せなさいっ。送ってあげる!』

 ……って、おまえ、いつまで俺をガキ扱いするつもりだよ。

 と、かなりイラッとしたけど、煌河の過保護も強引さもいつものこと。

 まぁそれは仕方がないとあきらめるにしても、さすがに、乃愛とのことを根掘り葉掘り聞いてくるのはうっとうしい。

 そういったこともあって、煌河の車には乗りたくなかった。

 しかめっ面で台本を読んでいたのも、乃愛とのことを聞かれたくないため。

 車に乗ることを何度も断ったのもそのためなのに、煌河が隣にいる状態で、乃愛からの電話にでられるわけがない。

 たぶん、昨日俺が乃愛の部屋に忘れていったシャツの件だと思うけど、好きな子との会話を家族に、っつーか、煌河に聞かれるほど恥ずかしいことはないからな。

 しかもそんな内容、絶対、からかわれるに決まってる。

 乃愛には悪いけど、さっさと拒否しよう。