『……え?』

『その顔は、俺の前だけにして』

 このかわいい顔を他の男が見るかと思うと耐えられないし、嫉妬で気が狂いそうになる。

 でも……。

『え?』

 と口にする乃愛は、俺の言葉の意味なんか、これっぽっちもわかっていないらしい。

 そのことが切なさに拍車をかける。

『かわいすぎて、いろいろヤバイ』

 だって、今すぐ抱きしめて、乃愛にキスをしたくなるから。

 でも今の俺には、そんなことができるはずなんかない。

 結局、いくら仕掛けても無駄なんだよな、ただの幼なじみでしかない俺には。

 どうしようもない事実と行き場のない気持ちに、さっきまでの高揚がみるみるうちにしぼんでいく。

 だから、『……王河?』と俺の名前を口にしながら首をかしげた乃愛の頭を、ポンポンッと軽く撫でてから、俺は教科書を指さした。

『じゃあ、そろそろ宿題でも始めるか?』

 急にそんなことを言ったのは、そうとでも言わなきゃ、この気持ちをどうしようもなかったから。