いったんチャイムを押すのをやめて、震える左手を右手で押さえる。

 ふーっと息を吐き出し、それからバッグを少し触った。

 細長い箱の感触。

 これは、乃愛への誕生日プレゼントに買ったネックレス。

 これを渡して、今日、俺は乃愛に告白をする。

 そう思ったら、よけいに緊張して足まで震えた。

 それでもどうにか気持ちを落ち着けて、乃愛に早く会いたいからチャイムを鳴らした。

 すぐに乃愛のお母さんが出てくれて、挨拶をしてから手土産を渡す。 

 持ってきたのは、今大人気のパティスリー・FranBoise(フランボワーズ)で1番人気のフルーツゼリー。

 乃愛の家は、家族の誕生日当日じゃなくて、みんなが揃う週末にお祝いをするって前に聞いた。

 だからケーキを持ってきてもよかったんだけど、今日は暑かったからこれにした。

 乃愛が大好きなフルーツがたくさん入っているのも決め手のひとつだったけど、涼し気なうえに、パッと目をひくキラキラ感がある華やかなデコレーションも、見ていて楽しいと思ったから。

 玄関先でそのまま乃愛のお母さんと世間話をしていて、ふと気が付いた。

 そういえば、俺、今日の訪問の理由をまだ伝えていない。

 っていうかその前に、理由を考えていなかった。

 とはいえ、まさか、“乃愛さんに告白をしにきました!”なんて本当のことを言うわけにはいかない。

 だから、『乃愛さんに宿題のことを教えてもらって、一緒に勉強がしたいから来ました』って、もっともらしいことを言っておいた。