「そんなこと……」

「乃愛ちゃん、俺の口から言うのもなんなんだけど。めちゃくちゃ愛されてるよ、藤城くんに。なんだか今はすれ違っているみたいだけど、藤城くんが乃愛ちゃんを大好きなのは、本当。でも素直になれないみたいだけどね」

 そこで山田くんはくすくすっと笑った。

 でもすぐに表情を変えて、真剣に言った。

「正直、俺だったらここまでできないもん、絶対。――というのは、通りすがりのただの知り合いのひとりごと。ねー?」

 そう言って山田くんはもたれかかっていた窓枠から体を起こし、手をひらひらっと振りながら、D組の方に歩いて行った。

 山田くんは優しい。あたしが落ち込んでいると、なぜかそれに気づいて話しかけてくれるし、元気をくれる。

 ものすごく優しい男の子。

 ありがとう、山田くん。

 あたしは山田くんの背中に向かって、心の中でお礼を言った。