「あれ?野々山じゃなかったっけ? あー、悪い。野々原だっけ? いやそれとも、野々村?」
謝ったあと、王河は首を横に傾けながら夏帆に聞いた。
「あー、もー、信じらんない。全部はずれ。っていうか、山でも原でも村でもなくて、“宮”なんです、あたしの名字は。の・の・み・や・! ったく、もう7月なんだから覚えてよ、さすがに」
「本当にごめん。名前を間違えるとか失礼なことして」
王河は夏帆に向かって頭を下げた。
「え、どうしたの?藤城。そんなに殊勝だと調子狂うわ。っていうか、逆に怖いわ」
「いやさすがに名前を間違えるのは……って、でも悪い。俺、次も間違えない自信がない」
「……は? クラスメートでしょ。それくらい覚えなさいよ」
「そうなんだけど……、じゃあさ、間違えないために、これからは“夏帆”って呼ばせてくれない?」
「えっ!? 夏帆っ!?」
「そう、夏帆。だったら、絶対に間違えない。だって、いつも乃愛が”夏帆”って言ってるから」
「……っ」
返事をすることなくぷいっと、本当にぷいっととしか表現しようがない感じで、夏帆は横を向いた。
あれ? 夏帆は、王河に名前を呼ばれるのがそんなに嫌なのかな?
こんな態度をとるのはどうしてだろう?
おまけに今度は、唇をかみしめながら斜め下を見ちゃったし。