「す、すみません」
と言いながら、あたしの名前を聞いた男の子がそばを離れた。
その姿が小さくなってから、
「隙がありすぎなんだよ、乃愛は。つか、『絶対、俺から離れんなよ』って言っただろ?」
ほんの小さな声で、あたしの耳元で王河が言った。
「ひとりで学校になんか、行かせられるか。これじゃあ、心配するなっていうほうが無理だろ」
「え? でも名前を聞かれただけ……」
「それでも、たったそれだけでも許せないって言ったら、乃愛はどうする?」
「え……?」
ふわっと後ろからあたしを抱きしめていた腕をほどいて、王河はあたしの手をそっとつかんで引っ張った。
王河があたしを抱きしめる姿があまりに衝撃的だったのか、あたし達のことを見て騒いでいる人たちはもういないみたい。
だったら、このまま手をつないでいてもいいのかな?
それにしても王河、なんでそんなに切なそうな顔をしているんだろう?
斜め上の高い位置にあるキレイな顔を見上げると、
「なんて言ったら、乃愛にわかるかな? 俺の気持ちが」
と、あたしの手を引っ張ったまま階段をのぼりながら、王河はフッとため息をついた。

