「乃愛ちゃ~ん、悪いんだけど、モバイルバッテリーを貸してくれない? 充電なくなっちゃった~」
お昼休み、学食にランチに行こうとバッグからお財布を出したとき、クラスメートの清水くんがタタタッと駆け寄ってきた。
清水くんは、ゆるっとした雰囲気がかわいい感じのよくしゃべる男の子で、ウエーブのかかったセンターパーツ分けの髪型がとてもよく似合っている。
「いいよ。どうぞ」
と、バッグの中を探して、ポーチの中からモバイルバッテリーを出して手渡す。
これは高校入学のお祝いに、お兄ちゃんがプレゼントしてくれたもの。
パステルピンクとホワイトでデザインされた、シンプルだけどかわいくて、薄型なのに大容量なところも気に入っているバッテリー。
『これ見つけたときは、“やば、乃愛にぴったり!”って即決して、ネームまで入れてもらったよ~』
って、ほくほくしていたお兄ちゃんの顔を思い出す。
「かわいいバッテリーだね。乃愛ちゃんにぴったり。ほんと、いっつもごめんね~」
清水くんは片目を瞑った顔の前に片手を立てて、少しだけ頭を下げた。
「いいよ、いつでも言ってね」
「ありがとー。乃愛ちゃん優しい~。お礼に、これあげるっ」
清水くんは、ポケットからお菓子を出して、あたしにくれた。