「いやいや、オレの気持ちを伝えるには、まだまだ全然足りないんだって。オレ、本当に乃愛ちゃんのことが好きだから!」
「はい、はい」
「“はい、はい”じゃなくて! 野々宮さんからも乃愛ちゃんに言ってよ。オレの良さとか、魅力とか。どんなに乃愛ちゃんのことを好きなのかとか~」
「はいはい。わかった、わかった」
森くんに向かってため息をつきながら、軽く手を振った夏帆は、あたしの腕を引っ張って言った。
「行こ乃愛。このまま森くんに付き合ってたら、HRが始まっちゃうよ」
夏帆はそのままきびすを返して、教室に向かおうとする。
あ、でも。このままじゃ申し訳ない。
森くんになにか言わないと。
そう思ったとき、
「ちょっと待って、乃愛ちゃん!」
と大声で言った森くんが、あたしの左腕を軽くつかんだ。
その瞬間、夏帆の手が離れて、あたしは森くんの方にちょっとだけよろめいた。
「……っ」
「ごめん、大丈夫?」
よろけたあたしを抱きとめて、森くんはあたしの耳元でこそっと言った。
「じゃあせめて。乃愛ちゃん、オレにご褒美くれない?」

