「美月、よせ、落ち着け」


金髪の一喜という男が慌てて止めに入る。


「でもっ…!」

「妹なんだろ?」


私が死にそうになっている中、お姉ちゃんは幸せそうにしていた。

それは憎らしいことでもあったが、私はそれでも純粋に嬉しかった。


「どうした?美月」

「…聡」


その時またあらたに二階の部屋から男が下りてくる。

私は肩からずり落ちいつの間にか床に落ちていたカバンを拾い上げると、人の並を掻き分けてこの場所から逃げる。


「綺月!」


カオルの声が聞こえたが振り返りはしない。


「どいて」


早くどいて。そこを早く。


「あ?誰だよお前」

「いいからどいて!」


私はその男達を半ば強引に押しのけて、この廃工場を後にする。

もうここには来ない、お姉ちゃんにももう会わない。

ひと目会えただけでもう十分だ。

私は溢れる涙を必死で拭いながら、初めて来た道をわけも分からず歩いた。

苦しくて何度も立ち止まり、またゆっくり歩き始める。

それを繰り返しながら私はどうにか生きていこうとしていた。