「その名を軽々しく使うやつは、俺が許さねぇ」


その雲はやがて雨を降らせ、地面をあっという間に濡らした。

男は傘もささずに、どんどん強くなる雨に打たれながら歩いた。

さっき弱い男を殴って出来た拳の血が、雨に濡れ滲んでくる。

雨は嫌いだ。

雨で濡れているのか、血で濡れているのか分からなかったあの日を思い出すから。


「その名は、お前が名乗れるもんじゃねぇ」


───白々しくその名を受け継ぐな


「聞いてんのか、聡」


男は誰もいない場所で、そう怒りをぶつけた。



<つづく>