「全部ちゃんとしたら、今度は遠慮なく全部貰うから」

「……え?」

「じゃあな、綺月」


カオルは言いたいことを全部言ってスッキリしたのか、私の頭を撫でると背を向けて元来た道を歩き始める。

私はカオルの言葉の意味をすぐに理解して、一瞬で真っ赤に顔が染まる。

私はカオルのせいで火照った顔がおさまるまで家には入れなかった。


「カオルのバカ」


小さく呟いた言葉は、もう既に小さくなったカオルには届かなかった。

今度会ったら文句を言おう。

そう決心して、私はようやく家のドアノブに手をかける。

昔は重くて重くて仕方なかったその厚い扉は、この日はなぜか凄く軽く感じた。


「ただいま」


私は家に入ると、久しぶりにこの家に挨拶をした。