男は、小学生の娘を連れて来た。

名前は奈都。


「奈都です」


真っ赤なランドセルを背負い、ニコニコと笑う奈都はこの作られた家族の中で唯一の光だった。

父親が出来たことで、母は毎日朝から晩まで働く事は無くなった。

学校から帰宅したら、もう既に夜ご飯の準備をしているようなただただ普通のお母さんになった。

奈都は、人懐っこい性格なのかすぐに母を「お母さん」と呼んだ。

それに加えて賢さも持ち合わせていた。

最初の頃は父親を「パパ」と呼んでいた奈都は、気付いたら「お父さん」と呼び名を変えていた。

統一した方が家族感が増すのだと考えたのだろう。

この家に馴染めず、大人になれない高校生の俺だけが異質の存在になった。

中学生の頃から、不良の類に入っていた俺は、ますます社会の常識から外れるようになった。

毎日夜な夜な色んなところで遊んで、大人に馬鹿な子供だと呆られるほどヤンチャなことをした。

一度母に本気で怒られたことがあった。


「どうして家に帰って来ないの!?お母さんに不満があるんでしょ!ちゃんと口で言ってくれないと分からないよ!」


親は子供のことならなんでも分かってると、小さい頃見ていたドラマで言っていた。

母親なら息子の気持ちを分かるはずだ。

でも、母は分からない。

だって、俺を育てたのは母ではなく俺自身だからだ。