その時、カオルの手がゆっくりと私の背中に触れる。

割れ物を触るように優しく触れると、ゆっくりと私と同じ力で抱き締め返す。


「綺月が欲しい」


私の耳元で、小さくて掠れた声でカオルが言った。

私はその意味も深く考えずに答える。


「全部あげる」


多分考えなくても、答えは決まっていたからだと思う。

カオルにとって深い意味は無くても、私のことを異性として好きでなくても、カオルが心から拒絶するまでは私がそばにいる。

いつしか雨は止んでいて、薄黒い雲の隙間から薄らと晴れ間が差し込んでいた。