Again〜今夜、暗闇の底からお前を攫う〜

…優しい?私が?

私は今まで優しいのはお姉ちゃんみたいな人だって思ってた。

一度だって自分が優しいなんて思ったことは無かった。

でも母にはそう見えていた。


「殺すのは可哀想だからって家に入った虫を生かしたまま外に出してあげたり、枯れそうな花に毎日水やりして育てたり、傘がない子に自分の傘貸してあげたりしてたでしょ?」


私でも覚えていない小学校の頃の出来事を、母はスラスラと口にした。

覚えてくれていたことが、私にはこの上ないくらい嬉しかった。


「傘を貸したことで、あなたがずぶ濡れで帰ってきた時、私はあなたを怒ってしまった」


そうだったっけ?

怒られすぎてあまり覚えていない。


「自分を犠牲にして他の人に優しくするあなたを見た時、怖くなったの。
歳を重ねる度、あなたのその優しさに付け入る大人達がきっと現れる。
そんな人達を目の当たりにした時、跳ね除けられるような強くて賢い子になって欲しかった。
だから、あなたの優しさをずっと否定し続けてきた」


母の内に秘めていた思いを聞くのは、生まれて初めてだった。

店員の声も、他の客の話し声も、外の音も耳に入らないくらい、私と母は二人だけの世界に入っていた。